アシックスのミッドソール「FlyteFoam」の特許を調べてみた
ランニングシューズ業界では各社が様々なミッドソールを開発しています。その中でも、本記事ではアシックスの「FlyteFoam(フライトフォーム)」について特許を調べてみたので紹介しようと思います。
FlyteFoamとは
METARUN (ASICS公式HPより引用)
アシックスは従来は軽量性を目的として「Solyte」という材料を使用していましたが、このSolyteを上回る材料として開発されたのが「FlyteFoam」です。
アシックス最軽量のミッドソール素材で、業界標準のミッドソール素材(EVA)より約55%軽いです。さらに耐久性と高いクッション性も同時に実現しています。
FlyteFoamは2015年11月に発売されたMETARUN(メタラン)に初めて搭載されました。金色のミッドソール側面にFlyteFoamと刻まれているのが分かれます。革新的なランニングシューズとして発売され、27000円(+税)という価格からもかなりの自信が感じ取れます。
また、「FlyteFoam」以外にも「FlyteFoam Lyte」と「FlyteFoam Propel」などといった素材もあります。詳しくはこれから特許と共に解説します。
FlyteFoamの特許
FlyteFoamの特許は特許第5756893号であると思われます。2015年5月に特許として登録され、2015年11月のプレスリリースでFlyteFoamが特許取得済と記載されているので、おそらく間違いないと思います。
メインクレームは以下の通りです(簡潔に書き直しています)。
シューズ部材:
- ポリマーフォームによって一部又は全部が形成されている
ポリマーフォーム:
- 中に繊維が分散されている
- 内部に前記繊維を存在させている気泡と、繊維を存在させていない気泡が形成されている
- 繊維が存在する気泡の大きさが、繊維が存在しない気泡に比べて大きい
さらに、サブクレームに以下の記載があります(主なものを抜粋)。
繊維:
- 繊維の平均長さが500μm以上、平均径が0.5μm~200μm
ポリマーフォーム:
- 比重が0.01~0.15
【引用】特許第5756893号 図2より(一部加工しています)
画像のように、気泡の大きい部分(繊維あり)と小さい部分(繊維なし)があることが特徴のようです。この特徴により、優れた復元性が発揮される(圧縮永久ひずみが小さくなる)と記載されています。
またこの画像で使用されているのは、直鎖状低密度ポリエチレンにポリアミド繊維を含ませた素材です。特許には明記されていませんが、FlyteFoamも同様の(またはそれに近い)素材が使用されていると思われます。
さらに、比重についてクレームでは0.01~0.15と広い範囲でとられていますが、本文中では0.05~0.15が好ましいとの記述があります。これより、FlyteFoamの比重はおおよそ0.1前後ということも推測できます。
FlyteFoam Lyteの特許
GEL-KAYANO 25 (アシックス公式HPより引用)
「FlyteFoam Lyte」は、セルロースナノファイバー(CNF)を活用することで、FlyteFoamの軽量性を維持したまま、FlyteFoamよりも強度を約20%、耐久性を約7%高めた素材です。ミッドソールの刻印はFlyteFoamと同じです。
FlyteFoam Lyteの特許はWO2019/220633であると思われます(2021年2月現在では出願中)。これも特許の内容から考えて間違いないと思います。
メインクレームは以下の通りです(簡潔に書き直しています)。
シューズのミッドソール:
- 架橋ポリオレフィン樹脂発泡体で構成される
架橋ポリオレフィン樹脂発泡体:
- 融点75℃を超える高融点ポリオレフィン樹脂を1種類以上含む
- 軟化剤と補強材を含む
軟化剤:
- 融点40℃~75℃の結晶性樹脂又はガラス転移温度が40℃~75℃の非晶性樹脂の何れかを含む
補強材:
- セルロースナノファイバー又はカーボンナノファイバーの何れかを含む
いろいろ書かれていて難しいですが、FlyteFoamと大きく異なるのは繊維の大きさとミッドソールの材質です。
繊維の大きさについて、FlyteFoamでは平均径が0.5μm~200μmとなっていましたが、FlyteFoam Lyteはナノファイバー繊維で1nm~400nm程度と小さくなっています。繊維が小さくなることで、個々の気泡の膜も補強できるようになるみたいです。
ミッドソールの材質については、FlyteFoamでは大きな限定はなかったのに対して、FlyteFoam Lyteでは細かい記述があります。本文中では、エチレン-αオレフィン共重合体、EVA、直鎖状低密度ポリエチレンの3種類の樹脂を含有することが好ましいと記述されています。
また、比重については0.07~0.15が好ましいとの記述がありました。この範囲はFlyteFoamの比重と重なっています。
このようにFlyteFoamの上位互換のようにも感じる素材ですが、FlyteFoam Lyteが採用されているシューズはあまり多くありません。GEL-KAYANO 25では採用されていたのに26以降ではなくなっていたりもします。恐らくコストなど不利な条件があるのだと思われます。
FlyteFoam Propelの特許
SORTIEMAGIC RP5 (アシックス公式HPより引用)
Propel(推進)という名の通り、推進性・反発性に優れた素材です。FlyteFoamの刻印とは異なり、右側に丸書いてちょんしてあるのがFlyteFoam Propelで見分けることができます。従来反発性を目的として使用されていた「SpEVA」という材料は、今後はFlyteFoam Propelの名称に統一されるみたいです。
FlyteFoam Propelの特許は特許第5719980号であると思われます(自信は50%くらい)。メインクレームは難しすぎるため割愛します(スピン-スピン緩和時間とかいう用語が謎でした)。ざっくりいうと、スピン-スピン緩和時間が異なる3相をバランス良く含むことが書かれています。
サブクレームには、以下の記載があります(主なものを抜粋)。
ポリマー組成物:
- スチレン系熱可塑性エラストマーをを含む
- エチレンとα-オレフィンとのブロックコポリマーを含む
- ポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む
- ポリアミド系熱可塑性エラストマーを含む
この中のスチレン系熱可塑性エラストマーについては、アシックス公式の技術紹介で含まれていることが分かっています。この他、独自のPEが含まれるとの記載があります。
【引用】アシックス公式HPより
比重については、本文中に0.05~0.30が好ましいとの記載がありますが、アシックスの技術紹介のグラフを見る限り0.2を少し超えています。これより、FlyteFoam Propelの比重はFlyteFoamの約2倍であることが分かります。
実際に、FlyteFoam Propelを全面に使用したEVORIDEよりも、FlyteFoamを全面に使用したEVORIDE 2の方が、厚くなったにもかかわらず20gくらい軽いです。