イージーラン(ジョギング)の効果を解説│適正距離・ペースは?
トレーニングの大半を占めるイージーラン(通常のジョギング)は、パフォーマンスを高めるうえで最も重要なトレーニングといっても過言ではありません。
私は中距離が専門(1500m:3分44秒)ですが、イージーランで土台を作ったからこそ記録が伸びたと思っていますし、統計的にも裏付けがあります。
そこで本記事では、イージーランの効果と適正なペース・距離について解説します。科学的な内容は最小限に留め、実践に移せる内容を中心にまとめました。
目次
効果と重要性
イージーランとは簡単にいえば通常のジョギングのことで、ざっくりマラソンペースよりも遅いペースでのランニングを意味します。
毛細血管の発達、ミトコンドリアの増加、回復の促進、ランニングエコノミーの改善といった効果があり、スピード練習を行うための土台になります。
効果の大きさは統計的にも示されていて、長距離ランナーの練習内容とパフォーマンスを分析した研究では、走行距離に次いでイージーランの相関が強く、どのスピード練習よりも上でした。
まずはイージーランで距離を稼ぐことが、遠回りのようでいて一番の近道になります(相関係数などの詳しい数字は、後述するLT走の記事で紹介しています)。
特に恩恵が大きいのは初心者と怪我から復帰したランナーで、イージーランだけでもある程度走れるようになります。
中〜上級者にとっては、回復を促進する意味で重要です。イージーランが少なく大半がスピード練習になっているランナーは、記録が安定せずピークが短い印象を受けます。
土台ができると回復が早まり、スピード練習を継続して積めるようになります。結果として、スピード練習そのものの質も上がります。
適切なペースと距離
心拍ゾーンとの対応
画像の引用元:garmin.co.jp
トレーニングで使われる心拍ゾーンのうち、イージーランはゾーン2にあたります。
- ゾーン1:50〜60%
リカバリージョグ、練習前後のアップ/ダウン、インターバル間の休息 - ゾーン2:60〜70%
イージーラン - ゾーン3:70〜80%
モデレート(マラソンペースより少し遅いくらい)
ゾーン2は遅すぎるペースではないものの、会話が普通にできる強度です。イージーランの定義には様々なものがありますが、本記事ではゾーン2(最大心拍数の60〜70%)とします。
もう少し踏み込むと、この境界はLT1(血中乳酸濃度が上がり始めるポイント)と対応しています。
LT1は最大心拍数の70〜85%とされ、個人差が大きい値です。初心者は下限付近、経験者は上限付近になりやすく、ゾーン2の上限である70%はLT1の下限にあたります。
つまりイージーランは、乳酸が溜まり始める手前で走る練習だと考えると分かりやすいです。ゾーン3は、人によってはLT1を超え始める領域になります。
▼LT1・LT2について詳しく
有名なダニエルズのEペースは最大心拍数の65〜79%と定義されていますが、上限の80%近くではイージーに感じない方が多いと思います。
これは、Eペースの上限がちょうどLT1に届く位置にあるためです。範囲の中では遅い側で捉えておくほうが、イージーランの目的には合っています。
ここからは経験上の話になりますが、私の場合は最大心拍数の70%が130bpmを少し超えるくらいで、ペースにすると4分半前後です。疲労が残っていたりコンディションが悪ければ、5分ペースでも到達します。
同じペースでもその日によってゾーンは変わるので、数字に縛られすぎないことも大切です。
VDOT Calculatorからの推測方法
ハーフマラソンのタイムが1時間24分のランナーの例
「最大心拍数の70%以下」と言われても分からない場合は、ダニエルズのVDOT Calculatorを使うと便利です。自己ベストからトレーニングの適正ペースを算出できるツールです。
自己ベストを入力し、Trainingタブに表示されるEasyの欄(画像の赤枠で囲んだ部分)がイージーランの推定ペースです。
前述のとおりEasyは範囲の上限が速いので、表示された範囲の遅い側を目安にしてください(画像の例では、キロ5より少し遅いあたりが適正ペースです)。
入力するタイムはハーフマラソンを推奨します。フルマラソンは有酸素能力ではなくエネルギーの枯渇で失速する場合が多く、走力が過小評価されやすいためです。
毎回計算するのが面倒であれば、ハーフのレースペース+1分/kmと考えて基本的に問題ありません。トップ選手はそれ以上に遅いことも多いです。
1500mのようなスピード型のランナーは速筋が優先的に使われて疲労が溜まりやすいので、イージーランはゆっくり走った方が良いです。ハーフのタイムをすすめているのも同じ理由です。
私は現在は中距離(1500m)を専門にしていますが、学生時代はどちらかといえば長距離が専門でした。当時より走力は格段に上がっているのに、中距離にシフトしたためか疲労が抜けづらくなり、ジョギングのペースは若干落ちています。
ペースが速すぎる・遅すぎると?
ペースを上げてゾーン3に入ったとしても、まだ有酸素系の寄与が大きいため効果がなくなるわけではありません。
ただしLT1を超えると血中乳酸濃度が上がり始め(目安は2mmol/L)、疲労が残りやすくなります。次のスピード練習までに回復が間に合わず、強度のバランスが崩れて怪我につながる恐れも出てきます。
強度の高い練習をした翌日や、レースが近い時期はゾーン1で走ることをおすすめします。ペースは特に気にせず、リラックスできて疲労が溜まらない範囲で構いません。
逆にペースが遅すぎると効果が薄くなるうえ、フォームが崩れて逆効果になることもあります。ただし初心者はゾーン2でもきつく感じる場合があるので、無理にペースを上げる必要はありません。
▼初心者向け記事
1回あたりの距離
ペースが決まったら、次は量です。これまでの研究と経験則から、ゾーン1〜2で走行距離の70〜80%を占めるのが最も効率的であることが分かっています(特に80%はよく言われる値です)。
この割合から逆算すると、1回あたりの距離が見えてきます。例えば月間走行距離が300kmのランナーであれば、300 × 0.8 = 240km(70%なら210km)をゾーン1〜2で行う必要があります。
このうち1ヶ月の20日をイージーランに充てるなら、240 ÷ 20 = 12kmが1回あたりの目安になります。
また、ロングジョグの上限は1週間の走行距離の25〜30%が推奨されています。先ほどの例でいうと1週間の走行距離が約70kmなので、17.5〜21kmが上限の目安です。
逆にいえば、この上限までなら1回にまとめても構いません。同じ240kmでも、回数を増やすか1回を長くするかは配分の問題です。
ただし1回が長くなるほど翌日に疲労が残るので、スピード練習の前日は短めにするなど、前後の予定と合わせて決めるのが現実的です。
なお、起伏のあるコースや不整地では同じ距離でも負荷が変わります。その場合は距離ではなく時間で管理したほうが、ゾーン1〜2で過ごした量を正しく把握できます。
初心者のうちも同じで、距離を目標にすると無理にペースを上げてしまいがちです。「ゾーン2で40分」のように時間で決めたほうが、結果的に狙った強度を守れます。
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流し(Strides)
流しは100〜150m程度の快調走で、乳酸の生成を防ぐために十分な休息を挟んで数本行います。
全力で走るものではなく、力まずに動きの大きさを取り戻すのが目的です。8割程度の力感で、フォームが崩れない範囲に留めます。
有酸素系のトレーニングが中心の時期でもある程度のスピードを維持でき、フレッシュな状態で翌日を迎えられる効果もあります。
また、ジョギング後の疲労がある状態で流しを行うことで、疲労がない状態では使われないような筋肉を動員することができます。
本数は3〜5本から始めて、余裕があれば増やす程度で構いません。休息は呼吸が落ち着くまで取り、息が上がったまま次を走らないようにします。
サージ(Surge)
サージはイージーランの途中に流しを入れるもので、数分の休息を挟んで数本行います。
流しと違うのは、止まらずにジョギングのまま繋ぐ点です。疾走後もそのまま走り続けるため、心拍数が完全には戻りません。
似た用語としてファルトレクやシャープナーがありますが、これらは疾走区間と休息区間の長さがほぼ同等なので、イージーランというよりはトレーニングに分類されます。
流しと異なり少しだけ乳酸が生成されるため、ベース期からトレーニング期へスムーズに移行する際に役立ちます。
ただし流しと比べて負荷がやや高いので、疲労を感じている際は控えたほうが良いと思います。入れるとしても週1回程度で十分です。
プログレッション(Progressions)
プログレッションはイージーランのペースから始め、最終的にゾーン3〜4(≒マラソンペース)まで徐々に上げていく方法です。
上げ方は、前半をゾーン2で通して最後の2〜3kmだけ上げる形が取り入れやすいです。全体を通して少しずつ上げていく形でも構いません。
マラソンペースで走ることでペース感覚が戻り、トレーニング期へ自信を持って移行するのに役立ちます。
最初から飛ばすと後半が上がらず、ただのペース走になってしまいます。前半は物足りないくらいで始めるのがコツです。
サージと効果が似ていますが負荷がさらに高くなるため、頻繁に行うことは避けたほうが良いと思います。
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デバイス
Garminデバイスを用いることで心拍ゾーンが確認可能
心拍数を確認する手段としては、GPSランニングウォッチに搭載されている光学式心拍計を利用する方が多いです。
手首で測る光学式は血流を光で読み取る仕組みのため、腕の振りや寒さ、バンドの緩みで誤差が生じます。しっかり皮膚に密着させて固定することで、ある程度の精度は得られます。
心拍ゾーンまで表示できるモデルが多いので、走りながら強度を調整できるのが一番のメリットです。
シェアの大半を占めるガーミンであれば、エントリーモデルでも光学式心拍計と心拍ゾーンが搭載されており、3万円前後で購入可能です。
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より正確に測りたい場合は、胸ベルト式(電気式)の心拍計という選択肢もあります。心臓の電気信号を直接拾うため、光学式より精度が高く、ペースの変化にも速く追従します。
一定のペースで走るイージーランなら光学式でも十分なことが多いですが、前述のサージやプログレッションのようにペースを動かす練習では、光学式は反応が遅れて実際より低い心拍数を示すことがあります。
価格は1万円前後からで、ウォッチとはBluetoothなどで接続して使います。胸に巻く煩わしさはあるので、毎回ではなく自分のゾーンを把握したい日だけ使う形でも良いと思います。
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シューズ
シューズは遅めのペース用(ゾーン1〜2)と速めのペース用(ゾーン3)に、少なくとも1足ずつ持っておくと便利です。
ゾーン1〜2は疲労を溜めないことが最優先なので、重量はそこまで気にせずクッション性・安定性に優れたモデルを選ぶと良いです。
脚を守ることを最優先にするなら初心者向きとされいるシューズやマックスクッションで、価格や扱いやすさも含めて選びたい場合は以下の記事が参考になります。中〜上級者にとってもデイリートレーナー・リカバリー用として使えるモデルが揃っています。
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ゾーン3はゾーン1〜2と同じシューズでも構いませんが、流しを入れたり途中でペースを上げることもあるので、私はやや軽めのシューズを履いています。
テンポアップに使うことを考えると、ある程度の反発と軽さがあるモデルが向いています。フルマラソン本番を見据えた距離走をゾーン3で行う場合は、レースと同じシューズを履いても良いと思います。
これらのシューズはサブ4おすすめシューズとして以下の記事にまとめていますが、レベルにかかわらず目的に合えば初心者・上級者にもおすすめです。
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まとめ・参考文献
イージーランについて要点を以下にまとめます。
- パフォーマンスを高めるうえで最も重要(走行距離に次いで相関が強い)
- ゾーン1〜2で走行距離の70〜80%を占める
- 適正ペースは最大心拍数の60〜70%(≒ハーフのレースペース+1分/km)
- これはLT1(乳酸が上がり始めるポイント)に達しない範囲にあたる
- リカバリー時は最大心拍数の50〜60%(ゾーン1)で良い
- Everything you need to know about running easy miles (2023/3/18閲覧)
- What is Zone 2 Training? (2023/3/18閲覧)
- Jack Daniels, Daniels' RUNNING Formula (Third Edition), Human Kinetics, 2013
- Steve Magness, The Science of Running, Origin Press, 2014
▼本記事で使ったVDOT CalculatorとEペースの考え方は、この本が元になっています。さらに詳しく知りたい方は参考にしてみてください。
