心拍数ゾーンとは?メリット・トレーニング方法を解説
ランニングにおける心拍数ゾーンについて、メリットやトレーニング方法について解説します。
目次
心拍数ゾーンの定義とメリット
ガーミンでは5つの心拍数ゾーンに分類(ゾーン境界の心拍数は最大心拍数で決定します)
心拍数ゾーンは最大心拍数に対する割合で区分けされ、トレーニングのペース(強度)を決める際に役立ちます。
心拍数ゾーンの分け方に定義はありませんが、本記事ではガーミンやポラールで用いられているような、50%〜100%の範囲を10%ごとに区分けした5つのゾーンを使用します。
ダニエルズの5つの指標(Easy, Marathon, Threshold, Interval, Repetition)とは分け方が異なりますが、こちらはトレーニングを目的別に明確に分類しています。
ウォッチの初期設定のままで特段困ることはないですが、ゾーンを変更したい場合はガーミンならアプリ(ガーミンコネクト)で変更可能です。
VDOT Calculatorを用いたトレーニング別ペースの算出
トレーニングのペースを決める際にVdot Calculator(自己ベストから推定できるツール)を用いる方は多いと思いますが、心拍数ゾーンを用いたトレーニングではリアルタイムで心拍数をモニターする点で大きく異なります。
心拍数はその日の疲労度合・気候・標高などによって左右するので、心拍数ゾーンを用いることでこれらの影響を考慮し、ペースを調整できる点がメリットです。
例えばスピード練習翌日など疲労が溜まっている状態では最大出力が下がり、同じペースでも疲労がない状態よりも加わる負荷が大きくなってしまいます。
心拍数をモニターすれば普段よりも心拍数が高いことに気づくことができ、ペースを下げることでオーバーワークを防ぐことができます。
同じペースのジョギングで心拍数を比較
画像は上側がスピード練習翌日(気温29度)、下側がスピード練習2日後(気温21度)にジョギングを行った際の心拍数です。ペースはどちらもキロ5(5'00"/km)に揃えています。
スピード練習2日後は疲労が抜け、さらに気温が低くなった影響もあり、同じペースでも前日よりも心拍数が平均12bpmも低くなりました。
もう1点、トレーニング中に過度にペースを上げてしまうのを防ぐことができるのも大きなメリットです。
ペースを上げすぎると別のトレーニングとなり、ペースを上げても得られる効果の増加分が小さく(費用対効果△)、無駄に疲労を溜めてしまうことになります。
このため、目的を決めてトレーニングに臨み、心拍数をモニターしながら適切にペースを設定することで、効率的にトレーニングを行うことができます。
最大心拍数の推定方法
心拍数ゾーンは最大心拍数に対する割合で決まるため、まずは最大心拍数を把握する必要があります。
最大心拍数がずれるほど心拍数ゾーンもずれてしまうため、できるだけ正確に設定することが望まれます。
最大心拍数の推定方法は2つあり、年齢を用いて計算式から算出する方法と、トレーニング中の心拍数から推定する方法があります。
年齢から心拍数を推定するためには、以下の計算式が用いられることが多いです。
- 220 - 年齢 [bpm]
ガーミン、ポラール、スントといった代表的なメーカーは、最大心拍数のデフォルト値にこの計算式から算出した値を使用しています。
ただし最大心拍数は個人差が非常に大きく、計算式から大きく外れてしまうことも少なくありません。
一方で、トレーニング中の心拍数から最大心拍数を推定する方法では自身の心拍数を用いるため、計算式のように個人差による誤差は生じません。
ただし、ウォッチ内臓の光学式心拍計は速いペース(=高い心拍数)では誤差が生じやすいため、計算式よりは信頼できるものの、信頼し過ぎには注意です。
以前雨の中ジョギングをしていたときに光学式心拍計が異常に高い値を示し、最大心拍数が大きく更新されてしまった経験があります。
光学式心拍計よりもさらに精度良く測定するためには、胸ベルト型心拍計(電気式心拍計)がおすすめです。以下の記事で精度を比較しているので参考にしてください。
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各ゾーン詳細
ゾーン1(50-60%)
画像の引用元:garmin.co.jp
ゾーン1は最大心拍数の50~60%で、非常に楽に感じる強度です。
私の場合ウォーキングでも50%前後まで達することがあり、非常にゆっくりなペースのジョギングで60%程度です。
LSDのペースをゾーン1で想像している方もいるかもしれませんが、時間対効果が低く、逆に疲労が抜けにくい感覚を受けることもあるため、基本的にはゾーン2を推奨します。
ゾーン1を使うことはあまりないですが、スピードトレーニング前後のアップ/ダウンや、ファンラン目的・初心者ならゾーン1でも良いと思います。
ゾーン2(60-70%)
画像の引用元:garmin.co.jp
ゾーン2は最大心拍数の60~70%で、緩めのジョギングペース(いわゆるイージーラン)に対応します。
全てのトレーニングのベースとなり、毛細血管・ミトコンドリアの発達など有酸素能力向上効果が期待されます。
統計的に走行距離はパフォーマンスと強い相関があることが示されており、走行距離の70〜80%をゾーン2(またはゾーン3)で費やすことが最も効率的であることが分かっています。
疲労を溜めずに走行距離を稼げるゾーン2は非常に重要で、スピード練習ばかりしていても高い効果は期待できません。
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ゾーン3(70-80%)
画像の引用元:garmin.co.jp
ゾーン3は最大心拍数の70~80%で、やや速めのジョギングペースに対応します。中程度の強度のため、モデレートランと呼ばれることもあります。
ゾーン2と同様に有酸素能力の向上効果が期待されますが、個人差はあるものの血中乳酸濃度が高くなり始めるペースでもあり、特に初心者は辛く感じる可能性があります。
先ほど走行距離の70〜80%をゾーン2(またはゾーン3)で費やすと書きましたが、辛さや疲労感を感じる場合はゾーン3で距離を稼ぐことは避けたほうが良いと思います。
私の場合は心拍数が80%程度のペースでは翌日疲労感を感じることが多いため、ジョギングペースは基本的に75%以下を目安にしています。
ジョギング中に気分が上がってペースが上がると比較的簡単にゾーン3に入ってしまいますが、これにより走行距離が落ちてしまうなら本末転倒です。
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ゾーン4(80-90%)
画像の引用元:garmin.co.jp
ゾーン4は最大心拍数の80~90%で、ここから高強度トレーニングに分類されます。トレーニングはマラソンペースの距離走とLT走に大別できます。
距離走はペースに定義はありませんが、フルマラソンのペースで行う場合はゾーン4前半~中盤になることが多いです。
低強度トレーニングと効果は同種になりますが、マラソンペースで行うことでレースを想定し、走力を把握することで今後のトレーニングプランを見直すきっかけにもなります。
マラソンペースからさらにペースを上げると乳酸性閾値(LT)に到達します。血中乳酸濃度が急激に高くなるポイントで、一気に辛さを感じるようになります。
このLTを速いペース側にシフトさせるために行うのがLT走で、このときの心拍数はゾーン4後半が目安です(初心者は80%を下回ることもあります)。
ペースはハーフマラソンのペースが目安で、一度で週間走行距離の10%以下とすることが推奨されています。
LT走を400m〜2000mに分割するクルーズインターバルでは、距離に応じて10kmのレースペースまで上げることもあります。
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ゾーン5(90-100%)
画像の引用元:garmin.co.jp
ゾーン5は最大心拍数の90~100%で、5000mのレースペース以上のトレーニングに相当します。
非常に強度が高いトレーニングなので、初心者はまずはゾーン4からチャレンジするのが良いです。また、フルマラソンのトレーニングもゾーン4が中心で良いと思います。
ゾーン5のトレーニングは、5000mのペース付近で行うインターバルと、1500mのペース付近で行うレペティションの2つに大別できます。
インターバルの主な効果はVO2max(最大酸素摂取量)の向上です。疾走距離は400m〜1200m、休息時間は疾走時間の50%〜80%が目安です。
疾走距離の合計は各個人の走行距離によって異なりますが、1000m×5といったように合計4000m〜6000mにすることが多いです。
レペティションの主な効果はスピード・ランニングエコノミーの向上です。疾走距離は200m〜600mが目安で、休息時間は疾走時間の2〜3倍が目安です。
疾走時間が短いため心拍数がゾーン5まで到達しないこともありますが、強度の観点からゾーン5のトレーニングと考えて良いです。
疾走距離の合計は2400m〜4000mにすることが多いです。強度が高いので、インターバルよりも合計距離は短いです。
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トレーニングの組み立て方
1週間のトレーニング例
先ほども紹介したように、パフォーマンスを効率的に上げるためには走行距離の70%〜80%を低強度(ゾーン2〜3)、残りを高強度(ゾーン4〜5)とする必要があります。
(ただし、ランニングを始めたばかりの方にとっては高強度トレーニングは負荷が大きすぎるため、走行距離の大半を低強度(ゾーン2)とし、ゾーン3を高強度と捉えても良いと思います。)
トレーニングの計画を立てるときは月間走行距離から逆算すると考えやすいです。ここでは、月間走行距離が300km(≒ 10km/日)・低強度トレーニングを80%とした例で考えてみます。
トレーニングを1週間単位で考えると週間走行距離は70kmとなるので、低強度で費やす距離は56km(= 70 × 0.8)と計算できます。
残りの14kmを高強度で費やしますが、トレーニング(LT走、インターバル、レペティション)をどのように振り分けるかは競技・時期・走力などによって異なります。
基本的にはバランス良く行いますが、試行錯誤しながら自身のコンディション・生活リズムに合うトレーニング方法を探していくのが良いと思います。
例えば社会人がフルマラソンでサブ4を狙うのであれば、平日はゾーン2で距離を稼ぎ、週末は練習会に参加してゾーン4中心にトレーニングを行う、といったことが考えられます。
私は1500mが専門ですが、シーズン中はゾーン5のトレーニングを中心とすることが多く、ゾーン4の走行距離を上回ることがあります。
科学的に効率的な方法ではないかもしれませんが、この方法で記録は伸び続けていて、日本選手権に出場することもできました。
今でもトレーニング方法は模索中ではありますが、ゾーン4を増やしすぎると逆に疲労が溜まり、自身の練習サイクルには合わないと感じています。
まとめ
本記事のまとめとして、心拍数ゾーンを用いたトレーニングのメリットや重要点を以下にまとめます。
- 最大心拍数はできるだけ正確に設定する
- 適切にペースを設定できるため、オーバーワーク防止となる
- 走行距離の70%~80%を低強度(ゾーン2~3)とするのが効率的(初心者は大半が低強度でOK)
- 高強度トレーニング(ゾーン4~5)はバランス良く行うが、初心者やフルマラソンのトレーニングならゾーン4中心でOK