光学式心拍計の仕組みと精度を解説│誤差要因、改善方法も紹介 – Unattached Runner
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光学式心拍計の仕組みと精度を解説│誤差要因、改善方法も紹介

 ガーミンの腕時計型デバイスなどに用いられている光学式心拍計仕組み・精度を解説します。誤差の要因や、改善方法も紹介します。

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光学式心拍計の仕組み

PPG信号(波形)取得まで

光学式心拍計の仕組み

各画像の引用元:garmin.co.jp

 上図のように、リストバンド式の光学式心拍計ではデバイスの裏側(皮膚側)にあるエミッタ(LED)から(主に)緑色の光を照射し(1)、その光は手首から反射されます(2)。

 心拍を繰り返すごとに血流量は規則的に変化しますが、ヘモグロビンは緑色の光を吸収するため、(2)の反射光は心拍数と同じ周波数を持っています。

 この反射光をレシーバー(フォトダイオード)で検知し、光の強さに応じて決まるPPG信号を生成します(3)。

 このPPG信号をプロセッサーで解析することで、心拍数を推定することができます。

PPG信号の解析方法

 PPG信号の解析方法を知るために、2017年にガーミンが取得した特許(US9801587B2)を読んでみました。

 (英語でかつ専門的な内容だったため、細かな言い回しなどに誤りがあるかもしれないことをご了承ください。)

 先ほど解説したようにPPG信号は心拍数に応じた波形(心拍成分)が含まれますが、これ以外にも動作成分、呼吸成分が含まれます。

 つまり、PPG信号から心拍数を推定するためには、プロセッサーで動作成分・呼吸成分といったノイズを取り除く必要があります。

US9801587B2 Fig3

特許より引用(US9801587B2, Fig.3)

 上図は、座った状態などの落ち着いた状態で見られるPPG信号です。横軸は時間[s]、縦軸はPPG(≒光の強さ)です。

 落ち着いた状態ではPPG信号に動作成分はほとんど入らないので、安定した波形が得られ、精度良く心拍数を推定することができます。

 この波形では、小さな波1つが心拍1回と考えらます(落ち着いた状態としては心拍数が高いようにも見えますが...)。

US9801587B2 Fig2

特許より引用(US9801587B2, Fig.2)

 次に、ジョギング中に得られるPPG信号を見てみると、先ほど(落ち着いた状態)よりも振幅が10倍以上大きくなっていることが分かります。

 これはジョギングに関連した動作成分が支配的になったためであり、この波形の中に心拍成分が埋もれて判別しづらくなっています。

 このように、運動強度が高くなるほどPPG信号の動作成分が占める割合が大きくなり、心拍数の推定精度が落ちてしまいます

 この複雑なPPG信号から心拍成分を特定する処理は複雑で難しく、各社が独自に工夫している部分でもあります。

PPG信号処理 フローチャート

特許(US9801587B2, Fig.4)を元に作成

 上図は、PPG信号から心拍数を推定するための信号処理のプロセスを、特許に基づいて簡易的に示したフロ-チャートです。

 まず、反射光から得られたPPG信号は、心拍数から外れた周波数成分を減衰することで事前調整を行い(4)、この波形をスペクトル分解することで周波数領域に変換します(5)。

 これと同時に、デバイスに搭載された慣性センサーにより複数の運動信号(速度、加速度、高度など)が取得され、プロセッサーで分析されます(6)。

 次に、運動信号事前調整したPPG信号を分析することで、PPG信号の中から動作成分を識別します(呼吸成分も同様の方法で識別できます)(7)。

 得られた情報から動作成分・呼吸成分を減衰するフィルタ係数を決定し、事前調整したPPG信号をフィルタリングします(後処理)(8)。

 フィルタ係数は急な運動変化(ペースを上げたなど)にも応答できるように、例えば2秒ごとに決定されます。

 最後に後処理したPPG信号を分析することで、心拍数を推定することができます(9)。同時に、ストレス・回復時間・VO2max・睡眠の質といった指標も判定することができます。

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精度

 市販のデバイス(Apple, Fitbit, Garmin, TomTom)を用いて心拍数の精度を測定した研究では、安静時では全てのデバイスが精度良く測定できたことを示しています。

 具体的には、Linの一致相関係数(CCC)と呼ばれる指標が全て0.85以上で、許容できる精度の目安である0.80を超えていました。

 一方で、時速8マイル(≒ 4'40"/km)以上のペースでは全てのデバイスでCCCが0.70未満となり、精度が低下していました。

 これは仕組みの部分で解説したように、運動強度(ペース)が上がるほどPPG信号の動作成分の割合が大きくなり、心拍成分の判別が難しくなるためです。

 また、その他の誤差要因として気温・汗・肌の色などが挙げられます。気温が低いと血流の流れ悪く心拍成分が小さくなるため、ウォームアップをすることで改善していきます。

 このように、運動強度や外部影響によっては精度が期待できない場合があります。スントのホームページには、測定誤差は「90%の確率で5%以内に留めるのが限界」との記載があります。

心拍数比較 6.6kmjog

30分間のジョギング(+100×3)で比較

 光学式心拍計の実際の精度を確かめるために、精度が高い胸ベルト型(電気式)心拍計と同時に測定して比較してみました。

 今回は30分程度のジョギングを行い、ペース変化の影響も見るために終盤に100mの流しを3本入れました。

 グラフは赤線が胸ベルト型(電気式)、緑線が腕時計型(光学式)で測定した心拍数[bpm]です。青線はペース[/km]です。サンプリング周期は胸ベルト型の方が短いです。

 精度が低下するといわれる4'40"/kmよりも速いペースに入っても、心拍数はほぼ同じ値を示しました。ほとんどの領域で±3bpm以内に収まっていて、この場合は光学式でも高精度に測定できたといえそうです。

心拍数比較 100×3

100m×3の部分を拡大(速度は非表示)

 上図は終盤の100m×3の部分を拡大したものです。見やすさのため、速度は非表示としています。

 2つの波形を比較すると、光学式心拍計による波形(緑色)が右にずれているように見えます。

 推測にはなりますが、動作成分を減衰するフィルタリング処理が急なペース変化に追いついていないからだと思われます。

 それでも誤差は大きくて5bpm程度(2〜3%)で、思っていたよりは精度良く測定できていました。

 ただし念のため注意書きをしておきますが、今回は精度が良かったものの場合によってはプロセッサーが心拍成分と動作成分を混同し、精度が大きく低下することもしばしば起こります。

 このため、本格的に競技に取り組んでいる方など、正確に心拍数をモニターしたい場合は胸ベルト型の心拍計がおすすめです。今回使用したのはガーミンの「HRM-Pro Plus」で、私はインターバルなど高強度のトレーニングで使用しています。

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精度を高めるためには?

光学式心拍計 装着方法

画像の引用元:suunto.com

 運動中の光学式心拍計の精度を高めるためには、手首から少なくとも指2本離れた位置に、しっかりと肌に接触するように装着する方法が有効です。

 手首に近すぎると、手首を屈曲させたことによる血流変化の影響を受けやすくなります。つまり、動作成分が大きくなるため心拍数の精度は落ちます

 また、ウォッチを肌にしっかり接触させることで、外部からの光(ノイズ)を抑制することができます。きつく締めすぎると血流に影響が出るので、LEDが外から見えなくなる程度でOKです。

心拍数比較 10.2kmjog

装着方法が精度に与える影響

 装着方法の違いがどれほど精度に影響を与えるかを確認するために、ジョギング中に装着方法を変えながら心拍数を測定してみました。

 先ほどと同様に、赤線が胸ベルト型(電気式)、緑線が腕時計型(光学式)で測定した心拍数[bpm]です。青線はペース[/km]です。

 始めは正しい装着方法とし、開始15分〜30分の間手首の近くで緩め(LEDが少し見える程度)に装着しました。その後、再度正しい装着方法に戻しました。

 予想通りではありますが、ウォッチを手首の近くにずらした15〜30分の間は胸ベルト型の測定値から大きくずれてしまいました

 おおよそ10〜20bpm程高い心拍数となったため、調子が悪いと判断されVO2max予測値が低下するなどの弊害が出そうです。

 30分後に正しい装着方法に戻した後は、20秒程で再度正しい測定値を示すようになりました。

 このように正しく装着すれば、ジョギング程度の運動強度なら光学式心拍計でも精度良く測定できることが分かりました。

 光学式心拍計はガーミンのエントリーモデル(2023/8現在:ForeAthlete 55)にも搭載されているので、是非活用してみてください。

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まとめ

  • 光を照射し、血液中のヘモグロビンの変化を捉えている
  • 得られた信号から動作信号などのノイズを減衰して心拍数を推定する
  • 運動動作が主な誤差要因で、手首から離れた位置に装着すると精度が向上
  • 通常のジョギング程度では、胸ベルト型の心拍計とほぼ同じ値を示す