VO2maxとは?推定方法、平均値・分布、タイム予測も紹介
ランニングにおけるVO2max(最大酸素摂取量)について解説します。推定方法、平均値・分布、マラソンのタイム予測も紹介します。
VO2maxとは?
ランニングの速度と酸素摂取量VO2の関係(「改訂版 身体活動のメッツ(METs)表」を元に作成)
VO2max(最大酸素摂取量)の定義は、運動中に身体が摂取し使用できる酸素(O2)の最大(max)の体積(V)です。
体重1kgあたりに1分間で摂取できる量(mL)で考えるため、単位は「mL/kg/min」となります。
グラフのように酸素摂取量(VO2)はランニングのスピードとともに増加します。グラフでは曲線を描いていますが、VO2はおおよそ以下の式から算出することもできます。
- VO2[mL/kg/min] = 3.5*ランニングの速度[km/h]
VO2maxが高くなれば速いペースを維持できるようになり、走力の向上が期待されます。
ただし、走力(例えばマラソンのタイム)はVO2maxだけでは決まらず、乳酸性閾値・ランニングエコノミーなど様々な要素の組み合わせで決定します。
このため人によってグラフの傾きは様々で、他のランナーよりもVO2maxが高くてもマラソンのタイムが速いとは限らず、その逆もあり得ます。
とはいいつつもVO2maxが走力に与える影響は大きいため「VO2max ≒ 走力」と考えられることは多く、認識として大きくずれてはいません。
基本的には自身の走力を把握してトレーニングに活用したり、フィニッシュタイムを予測するために用いることが多いです。
VO2maxの推定方法
呼気ガス分析によるVO2max測定のイメージ
VO2maxを正確に測定するためには、専門施設で運動中(トレッドミル・バイク)の呼気ガス分析などを行う必要があります。
トレッドミルであれば徐々にスピードや傾斜を上げていき、バイクであれば抵抗を上げていくことで運動強度を高めながら測定します。
ただし、施設に足を運ぶ必要がある上に料金もそこそこかかり、気軽な測定方法ではありません。さらに、場合によっては正確な値が得られないこともあります。
私は学生時代に被験者でバイクを用いた方法で測定したことがありますが、脚の筋力が弱くてバイクの抵抗に勝てずに所定のペースで回せなくなり、呼吸が限界に達する前に終了してしまいました。
この結果、持ちタイムからは考えられないほど低い数値(55mL/kg/mimだった記憶です)が推定されてしまいました。
気軽にVO2maxを知りたい場合は、GPSランニングウォッチ(ガーミンなど)に搭載されたVO2maxの推定機能を用いることがおすすめで、実際大半の方がその方法を選んでいます。
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GPSウォッチがVO2maxを推定するプロセスは、おおよそ以下の通りです(特許US20110040193A1を参考にしました)。
- ユーザーが年齢・最大心拍数を入力
- アクティビティデータの収集
- 複数の心拍数ゾーンに分割
- 各データの信頼性を計算
- 信頼性に基づき重み付け(係数)を決定(場合によっては除外)
- パフォーマンスと心拍数の関係から、VO2maxを推定
運動強度は最大心拍数の何%であるかで評価されるため、最大心拍数の設定がずれていると、VO2maxの推定値もずれてしまいます。
最大心拍数は初めは入力した年齢から計算式により算出された値が使用されることが多いですが、アクティビティデータから更新する機能を持ったウォッチもあります。
複数の心拍数ゾーンに分割する理由は、VO2maxの推定直線(曲線)を引きやすくするためです。エクセルで様々な(横軸に幅広い)データがあるほど近似直線が引きやすい理由と同じです。
データの信頼性は心拍変動が低いデータほど高くなります。心拍変動が低いことは安定した精度の良いデータとされ、大きな係数が設定されて優先的にVO2maxの推定に利用されます。
逆にGPSがブレていたり、信号待ちで極端に心拍数が落ちた際のデータは、推定値に大きな影響を与えないように係数が小さく(または0に)設定されます。
上のグラフは私の4週間のVO2maxの推移です。ここから特徴的な部分をピックアップし、実際どのようにVO2maxが推定されているかを考察します。
まず全体を通してグラフは上昇傾向にあります。このため、実際のVO2maxが現在の推定値(=71)よりも高いことを前提とします。
①では急激にVO2maxが上昇しています。この日は高強度のスピード練習を行っています。
ガーミンとしては、「VO2max=71のランナーとしては速いペースなのに、余裕を持って走れているため走力が向上した」と判断し、VO2maxを上昇させています。
この「余裕をもって」というのは、先ほども記載したように最大心拍数に対して何%で走れているかで判断されます。このため、最大心拍数の設定は重要です。
次に②ではVO2maxの上下がなく、おおよそ一定の値で推移しています。この期間ではジョギングなど低強度の練習が中心でした。
このように、低強度の練習では基本的にVO2maxは大きく変動しません。感覚としても、ジョギングだけを見て走力(≒VO2max)を推定するのは難しいことは分かると思います。
また、高強度の練習でもショートインターバルではVO2maxが大きく変動しないことが多いです。
先ほど記載したように心拍変動が小さいデータの信頼性が高いとされるので、ペースの切り替え頻度が高いショートインターバルでは心拍変動が大きく、信頼性が低く判断されやすいと推測されます。
③ではVO2maxが低下しています。この日はジョギングを行いましたが、光学式心拍計の測定値が高い側に大きくずれていました。
ガーミンとしては、「VO2max=71のランナーとしてはジョギングペースなのに、心拍数が高すぎるため走力が落ちている」と判断しています。
ざっくりいうと、大して速いペースではないのに、スピード練習のように頑張って走っていると思われ、VO2maxが下げられています。
光学式心拍計は適切に装着することである程度の精度で測定できますが、寒い日やペース変動に弱く、測定原理的に精度の限度があります。
③でみられるような弊害を避けるために安定して精度良く心拍数を測定するには、胸ベルト型の心拍計の使用が必須となります。
以下の記事で、光学式心拍計(ウォッチ型)と同時に心拍数を測定することで精度を比較しているので参考にしてみてください。
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VO2maxを高めるためには?
Garmin Connectで確認したトレーニング効果
VO2maxを高めるためのトレーニングは単純で、酸素摂取量が最大に近い強度のトレーニングを行うことです。
このときのペースは、velocity(速度)の頭文字を取って「vVO2max」と呼ばれることがあります。直訳すると、最大酸素摂取時の速度となります。
vVO2maxは、最大心拍数の90%〜100%、または5000mのレースペース前後が目安となります。
(高強度のトレーニングに慣れていない方は、中強度の練習から徐々に強度を上げていくことが推奨されています。)
vVO2maxは強度が高く長時間維持することが困難なため、基本的にはインターバル(1000m×5など)で休息時間を挟み、vVO2maxでより多くの時間を費やすようにします。
練習メニューを組む際はvVO2maxなど高強度のトレーニングのみならず、低強度のトレーニングで土台を作ることで効率的にパフォーマンスが向上します。
具体的には、走行距離の70%〜80%は低強度トレーニングで費やし、残りの20%〜30%をインターバルなどの高強度トレーニングで費やします。
心拍数ゾーンを用いたトレーニングについては以下の記事でまとめており、練習メニューの組み立て方についても解説しています。
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平均値・マラソンタイム予測
平均値・分布
年代 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
10〜19歳 | 51.2 | 43.2 |
20〜29歳 | 43.2 | 33.6 |
30〜39歳 | 37.2 | 30.6 |
40〜49歳 | 34.5 | 27.4 |
50〜59歳 | 31.7 | 25.6 |
60〜69歳 | 28.6 | 23.4 |
70〜79歳 | 26.3 | 23.1 |
データの引用元:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023
上の表は、日本人全体の男女・年代別のVO2maxの推定平均値を示したものです。
表から分かるように10代のVO2maxの平均値は男性が51.2、女性が43.2でした。20代で急激に低下していますが、その後は緩やかに低下しています。
一般的な(走り慣れていない)方も対象としているので、普段からランニングをしている方にとってはかなり低い数値に感じられると思います。
本記事を読んでいる方は大半がランナーだと思うので、次にガーミンユーザーのVO2maxの分布を示します。
年齢は5歳刻みだったので、代表として40〜44歳のデータをピックアップしています。
データの引用元:connect.garmin.com
グラフからVO2maxの平均は、男性が48〜50、女性が42〜44前後であると推測されます。
先ほどの日本人全体の結果よりも10mL/kg/min以上平均が高く、トレーニングによってVO2maxが向上していることが分かります。
タイム予測
以下の2つの方法で、VO2maxからフルマラソンのタイム予測をしてみました。
1つ目は計算で算出する方法です。まずは、速度(ペース)から酸素摂取量(VO2)を計算します。
ここで、VO2は「改訂版 身体活動のメッツ(METs)表」を参考に計算しました。
Mets(メッツ)とは身体活動の強度を表す指標です。安静状態が1Metsで、3.5mL/kg/minのVO2に相当します。
フルマラソンのペースはおおよそvVO2maxの75%〜85%となるので、計算したVO2を0.75〜0.85で割ることでVO2maxを算出します。
2つ目の方法は、VO2maxとフルマラソンのタイムの分布を同じ幅で縦に並べ、単に横軸を照らし合わせることで推定する方法です。
ここでフルマラソンのタイムは東京マラソンの結果を対象とし、当サイトで作成したタイム分布を使用しました。
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これら2つの方法でVO2maxから推定されるフルマラソンの予測タイムは以下のようになりました。
フルマラソンのタイム | VO2max(計算値) | VO2max(横軸合わせ) |
---|---|---|
2:30:00 | 63.4〜71.9 | 68〜70 |
3:00:00 | 53.3〜60.4 | 63〜65 |
3:30:00 | 46.8〜53.1 | 58〜60 |
4:00:00 | 42.2〜47.8 | 53〜55 |
4:30:00 | 38.6〜43.8 | 48〜50 |
5:00:00 | 35.7〜40.4 | 43〜45 |
男性のVO2maxの平均は48〜50でしたが、フルマラソンのタイムは計算値による方法では3時間30分前後になりそうです。
ただし、実際のフルマラソンのタイムの平均は4時間34分で、予想されるタイムよりも1時間以上遅いです。
理由は推測になりますが、計算値では(歩くなどの)トラブルがなく有酸素能力を100%出し切ったことを想定しているからだと思われます(ガーミンユーザーのレベルが高いから、という可能性もあります)。
つまり、VO2maxが48〜50では理論的に3時間30分タイムが出るが、一般的なランナーは(エネルギー不足などで)出し切ることが難しく、実情はタイム分布から推測した4時間30分程度になっている、と考えられます。
ただしどちらの方法も推定タイムであり、それ以前にVO2maxの推定値自体に誤差があることも多いため、あくまでも参考程度に見てください。
まとめ
VO2maxが向上すれば速いペースに対応できるようになり、パフォーマンスの向上が期待されます。
VO2maxの推定値にはガーミンなどのGPSウォッチの機能を利用する方が多いですが、心拍計の精度や最大心拍数の正確な設定が重要です。
VO2maxの平均は、ガーミンユーザーで男性が48〜50、女性が42〜44前後であることが分かりました。
VO2maxを上げるためにはvVO2maxの高強度の練習が有効で、5000mのレースペース前後が目安です。
ただし、練習メニューを組む際は高強度の練習だけでなく、低強度のトレーニング(主にジョギング)でベースを作ることが重要です。