LT走とは?目的、適正ペース(PB別)、練習法を紹介
★2023/4/30更新:一部内容を修正しました★
ランニングにおけるLT走の目的、適正ペース、練習への取り入れ方などを解説します。本記事では実践に応用できるような内容を目指しました。
目次
LT走の定義・目的
ランニングのペースと血中乳酸濃度の関係(数値はイメージです)
LTは「Lactate Threshold」の頭文字を取ったもので、乳酸性閾値(にゅうさんせいいきち)と訳されます。
ランニングのペースを上げて行くと血液中の乳酸濃度が高まりますが、乳酸の除去速度を生成ペースが上回ったタイミング(閾値)で乳酸濃度が高くなり始めます。
このときの運動強度をLT(乳酸性閾値)と呼び、LTペース(Tペース)で走ることをLT走といいます。また、LT時の乳酸濃度は2.0mmol/L前後といわれています。
さらに運動強度を上げて4.0mmol/L前後に達すると、水素イオンの発生により血液のpHが下がり(酸性化)、筋肉の収縮能力が低下します。これにより、一気に辛さを感じるようになります。
通常の方はVO2max(最大酸素摂取量)の60%前後のペースでLTに到達しますが、トップアスリートでは90%近くになるまではLTに到達しないといわれています。
LTが向上したときのイメージ
LTはトレーニングによって改善可能で、先ほどのグラフで説明すると乳酸濃度の傾きが緩やかになるイメージです。
画像の例では3'30"/kmがLTペースだった方が、トレーニングによって3'20"/kmまで向上したことを示しています。この場合、3'20"/kmまでは乳酸濃度が上がりづらく、それだけ速いペースを維持できるということになります。
LTを向上するためには、単純にLT走を行うことが有効です。簡単にいえば、やや辛いペースで走ってスタミナを鍛えるイメージです。
もう1点、LT走を行う重要な目的として「トレーニング量(走行距離)を稼ぐ」ことがあります。
長距離ランナー(5000m〜フルマラソン)を対象に練習内容とパフォーマンスを分析した研究では、トレーニング量(走行距離)が最もパフォーマンス(Scoring Table基準)と相関が強いことが示されています。
相関係数(研究からの引用)は、トレーニング量が0.75、イージーランが0.68、テンポランが0.50、ショートインターバルが0.53、ロングインターバルが0.22でした。
(補足までに、ここでいうテンポランは後で解説するクルーズインターバルを含みます。ショートインターバルとロングインターバルはLTより速いペースを指しています。)
このため、LT走はLTを向上するだけでなく、走行距離を稼ぐこともできるため一石二鳥な練習だといえます。
適正ペース
推定方法
LTを正確に測定するには実際に血液サンプルを採取する必要がありますが、トップアスリートでもない限り毎回測定するのは非現実的です。
このため、LTを推測するためには「Vdot Calculator」を用いて自己ベストから算出する方法が取られることが多いです。
種目と自己ベストを入力することでVdotが予測される
こちらのサイトから自己ベスト(1500m〜フルマラソン)を入力することで、Vdotを算出することが可能です。
VdotとはVO2maxにランニングエコノミーを考慮した指標で、VO2maxよりもランナーの走力を精度良く推定することができます。
TrainingタブでLTペースが確認可能(画像の例では3'04"/km)
Vdotを算出したら下にあるTrainingタブを選択します。するとトレーニング別の適正ペースが表示されます。LTペース(Tペース)はThresholdに対応します。
ちなみに、Equivalentタブでは入力したタイムが他の距離ではどれくらいのタイムに相当するかが表示されるため、タイム予測にも利用できます。
ここで注意なのが、推定されたLTペースやタイム予測が必ずしも正しいとは限らないことです。入力したペースがLTペースから離れているほど精度は落ちていきます。
このため推定された値はあくまで参考値として捉え、そこから調整しながらLTペースを探していくのが良いです。
LTペースは感覚でいうと辛すぎではないけど楽でもないくらいの感覚です。ハーフマラソンのレースペースとほぼ同等ともいわれています。
Vdot Calculatorでハーフマラソンのタイムを入力してみると、ハーフマラソンのペースとLTペースがほとんど同じになることが確認できると思います。
画像の例ではハーフマラソンのタイムを1:03'17(3'00"/km)と入力したところ、LTペースは「3'01"/km」と表示されました。
自己ベスト別LTペース一覧
以下に、自己ベスト別のLTペースの一覧表を示します。ただし、先ほども書いたように参考値としてみてください。
1500m | 5000m | 10000m | LTペース |
---|---|---|---|
3'48 | 14'00 | 29'00 | 3'01"/km |
4'03 | 15'00 | 31'11 | 3'15"/km |
4'18 | 16'00 | 33'23 | 3'30"/km |
4'32 | 17'00 | 35'36 | 3'44"/km |
4'47 | 18'00 | 37'50 | 3'59"/km |
5'02 | 19'00 | 40'04 | 4'15"/km |
5'17 | 20'00 | 42'19 | 4'30"/km |
5'32 | 21'00 | 44'35 | 4'45"/km |
5'46 | 22'00 | 46'51 | 5'01"/km |
6'01 | 23'00 | 49'08 | 5'17"/km |
練習への取り入れ方
練習メニューは大きく分けて2つ
- テンポラン: LTペースを20分程度継続
- クルーズインターバル: 1600m~2000m程度に分割
LTペースの練習で有名なのが「テンポラン」と「クルーズインターバル」です。
テンポランは人によって定義が異なることがありますが、大抵はLTペースで20分程度継続して走るトレーニングを指します。
また、クルーズインターバルはLTペースで行う1600m〜2000m程度のインターバル(レストは1分が多い)を指します。
どちらを好むかは個人差があると思いますが、私はクルーズインターバルを推しています。理由はクルーズインターバルの方が気持ち的に楽で、かつテンポランよりも走行距離が長くなることが多いためです。
走行距離はテンポランでは6000m前後となりますが、1600m×5のクルーズインターバルでは8000m稼げます。先ほど研究を紹介をしたように、走行距離とパフォーマンスは強い相関があります。
テンポランで距離を稼ごうとすると、強度が高くなりすぎることがあります。ハーフマラソンのペースとはいっても、練習で6000m以上走ると結構疲れます(個人差はあります)。
ただし、テンポランは現状の走力を把握しやすいこと、以前の練習と比較しやすいメリットはあります。
トップアスリートの練習例
次に実践編として、東京オリンピック2020の1500mを3分28秒で優勝したヤコブ・インゲブリクトセン選手の練習例をみていきます。
ヤコブ選手は鍛錬期には週に2回、1日2回のLT走を行っていて、午前は2mmol/L以内で5min×6、午後は3.5mmol/L以内で1000×10や400×20といった練習をしています。
午前は典型的なクルーズインターバルで、午後も距離が短いもののクルーズインターバルに近いトレーニングです。また、走行距離は8000mを超えています。
また、午前と午後で乳酸濃度を変えていることから、LTペースといっても特定のペースがあるのではなく、距離に合わせて幅をもたせる方が良さそうです。
Vdot Calculatorではおおよそハーフマラソンのレースペースになりましたが、10000m〜ハーフマラソンのペースであれば適度な強度になると思います。
練習計画
ここからはLT走をどのように練習メニューに入れていくかを解説します。経験と感覚で書いている内容も含まれるので、1つの考え方として参考にしてもらえればと思います。
LT走の頻度は、1500m〜10000mのトラックの選手であれば鍛錬期(冬季や夏季)は週1〜2程度行い、レース期に移行するにつれて徐々に減らしていくことが一般的です。
鍛錬期はレースペースよりも遅い側(LTペース)と速い側の両端からトレーニング行い、徐々にレースペースに近づけていくことがおすすめです。
速い側のペースは、おおよそ5000m~10000mの選手なら1500mのレースペース、1500mの選手なら800mのレースペースが当てはまります。
ハーフ〜フルマラソンの選手であればLTペース(orやや遅いくらい)がレースペースになり、ほぼ1年を通してLT走を行うことになります。
鍛錬期はレペティション・インターバルペース(1500m~5000mのレースペース)のトレーニングも織り交ぜ、レース直近ではLT走(またはマラソンペース)を中心にすると良いと思います。
初心者であればLT走にこだわらず、まずは走行距離を伸ばしていくことをおすすめします。初めはこれだけでも走力は伸びていくと思います。
LT走を行うこと自体にハードルがある場合は、ジョギング後の途中だけペースを上げてみたり、ジョギング後に流し(100m前後の快調走)を数本入れるだけでも効果はあります。
レースペースよりも速いペースを体に覚えさせることで、本番楽に感じる(低出力でも走れる)ようになることが目的です。
おすすめのシューズ
LT走では走行距離が長くなるため、できるだけ脚に疲労を残さないことが重要だと思います。
LTペースであればスパイクを履くまでもないですが、楽ではないのないのでジョギング用シューズとは別にした方が良いです。
適度に軽くてクッションがあるモデルが適していて、具体的には厚さは30mm~40mm程度、重量は27.0cm基準で240g以下であれば使いやすいと思います。
ヴェイパーフライ(Nike)、メタスピードスカイ+/エッジ+(Asics)といった各社最速のマラソンシューズでも良く、ズームフライ(Nike)、マジックスビード(Asics)などトレーニング寄りのシューズでも良いと思います。
他にもタクミセン(8以降)(Adidas)、ストリークフライ(Nike)などの5km~10km特化のスーパーシューズや、エボライド(Asics)、ハイペリオンマックス(Brooks)などのプレートがないモデルも負荷が少なくておすすめです。
トレーニングで使いやすいシューズについては今後まとめて記事にしたいと思っています。
関連記事
まとめ
LT走について要点を以下にまとめます。
- 目的はLT到達時のペースを遅らせることと、走行距離を稼ぐこと
- ペースは10000m〜ハーフマラソンのレースペースと考えると良い
- 負荷をかけすぎず、走行距離を稼げるクルーズインターバルがおすすめ
- クルーズインターバルは1600m~2000mが基本。距離に応じてペースを変えても良い
参考文献・参考記事
- What is lactate threshold and how can you determine yours? (2023/2/19閲覧)
- The Norwegian model of lactate threshold training and lactate controlled approach to training (2023/2/19閲覧)
- An insight into the training of Jakob Ingebrigtsen (2023/2/19閲覧)
- Casado A, Hanley B, Santos-Concejero J, Ruiz-Pérez LM. World-Class Long-Distance Running Performances Are Best Predicted by Volume of Easy Runs and Deliberate Practice of Short-Interval and Tempo Runs. J Strength Cond Res. 2021 Sep 1;35(9):2525-2531. doi: 10.1519/JSC.0000000000003176. PMID: 31045681.
- Jack Daniels, Daniels' RUNNING Formula (Third Edition), Human Kinetics, 2013
▼本記事で紹介したLT走を初め、イージーラン・インターバル、レペティションといったトレーニングや練習メニューの組み立て方を知ることができます。